情報子概論 Ⅳ-5. 軍拡競争-相互圧力の増大と資源限界-

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Ⅳ. 情報子進化の具体的事例
5. 軍拡競争-相互圧力の増大と資源限界-

熱帯雨林の樹木は驚異的な速度で30メートルを超える高さまで生長し、樹冠と呼ばれる特異な環境を形成する。ではなぜ熱帯雨林の樹木はそれほどまでに急いで高く生長しなければならないのか。実は、熱帯雨林の土壌は他の気候の土壌と比較すると栄養素が乏しい。つまり土からの栄養素は期待できないから光合成に頼ることになる。光合成ができれば土壌が痩せていても生存できる。しかしそれなら光合成ができさえすればいいわけで必ずしもここまで背が高くなる必要はなかったはずだ。

答えは環境圧力ではなく相互圧力にある。Ⅲ-4. 自然淘汰圧力と進化で同一ニッチに生息する個体間において発生する相互圧力について述べた。熱帯雨林形成当初の樹高はそれほど高くなかったと思われる。しかし、あるとき、他の樹木よりも少しだけ早く少しだけ高く生長する遺伝子を持った樹木が突然変異によって発生したとする。他の樹木よりも少しだけ早く少しだけ高く生長する遺伝子を持った樹木は、自分より樹高の低い樹木よりも多く光合成を行うことができ、しかも自分より低い樹木の光合成を阻害して枯れさせてしまえば土壌の方の栄養も独占することができる。樹高が高いことは生存競争に有利な結果となった。より樹高の高い樹木はより多く光合成の機会に恵まれ、高確率で子孫を遺すことができる。そして反対に樹高の低い樹木は光合成の機会に恵まれず自然淘汰されていく。樹木間での樹高を決定する遺伝子に対しての相互圧力は世代を経るたびに増大し、樹高を競う争いは激化していく。

この競争は資源限界まで続けられる。企業なら裏で協定を結ぶこともできるだろうが樹木にトラストはつくれない。しかし資源限界を超えては生長できない、自らの幹や根の材料となる資源の量には限りがあるからだ。ゆっくりと太く生長すれば自重に耐える幹を獲得できるが、ライバルより生長が遅いと太陽をライバルの葉に遮られて光合成ができなくなる。熱帯雨林ではライバルの生長の早さも重要な相互圧力になっている。つまり熱帯雨林では30メートル前後が資源限界であり相互圧力のせめぎ合うカオスの縁というわけだ。

このような相互圧力の増大は人間社会にも見られる。東西冷戦化の米国とソ連がまさに熱帯雨林と同じ状況にあった。第二次世界大戦後、米国とソ連はどちらが世界のリーダーシップを奪うか争っていた。米国の保有していた核爆弾、100万人の民間日本人を大量虐殺したこの殺戮兵器はソ連にとって脅威以外の何物でもなかった。ソ連は核兵器の独自開発を急ぎ成功させた。ソ連がいつ米国に核兵器を発射するかもしれないという恐怖と、米国がいつソ連に核兵器を発射するかもしれないという恐怖が、両国の政府と国民の間に蔓延していった。(※このように「死」に関する情報子は社会において旺盛な繁殖力を有する傾向がある)

そして軍拡競争がはじまった。軍拡競争は一度はじまると資源限界に達するまで決して終わらない。国家における資源限界とは、つまり国家財政の限界のことだ。両国は膨大な国家予算を軍事費にあてて軍拡競争を続けた。チェルノブイリ原発事故後にソ連が崩壊してて東西冷戦は一応の終結を迎えつつある。(※2013年追記:その後はリーマンショック後の世界不況で資源限界が押し下げられて多くの国では軍縮へ向かっている)

米国では貿易センタービル爆破事件後にテロリストという恐怖が蔓延した。軍拡競争は資源限界に到達するまで決して終わらない。特に人間社会においては、軍事産業などステークホルダーによるプロパガンダ(※これも情報子)で仮想敵国や仮想テロリスト(※これも情報子)を生み出してしまう。つまり実際には相互圧力となる競争者が存在していなくても、自らが想像した仮想敵国や仮想テロリストによって自らに相互圧力をかけてしまうのである。軍拡競争の根底にも情報子が関わっている。

軍拡競争の法則
「国家による軍拡競争は敵国(相互圧力)が存在しなくても、仮想敵国を自ら作り出すので、資源限界(財政限界)に到達するまで終わらない」

軍拡競争は市場においても同様である。他社よりデザインや性能あるいは価格が優れた商品は高確率で生存競争に勝利する。それ故に企業は他社よりも優れた商品を市場へ投入する努力を続けている。携帯電話も自動車もたった数年で驚異的な進化を遂げている。TVゲーム業界は軍拡競争が最も激しい市場である。ほんの数十年前に生まれたテレビゲームは1978年インベーダーゲームの爆発的ヒットによって市場を急速に拡大させ、ニンテンドーの家庭用ゲーム機「ファミリーコンピューター」によってゲーム産業はさらに巨大化してビッグビジネスへと急成長していった。消費者はより面白いゲームを求めた。つまらないゲームは市場淘汰される。消費者のニーズに応じてハードウェアもソフトウェアも高度化し、ゲーム開発費も高騰していった。世界規模で大ヒットしたソニーの「プレイステーション」は上位機である「プレイステーション2」でも大成功した。このゲーム機は当時のパソコン以上の演算能力を持つCPUを搭載していた。ここに松下の「ドルフィン」やMicrosoftの「Xボックス」などがゲーム市場に参入して相互圧力はさらに増大、生存競争は激化していった。この軍拡競争はこれからも続くだろう。(※2013年追記:この後に彗星のごとくスマホが登場して据え置きゲーム産業は衰退しSNS課金ゲームが隆盛を極めることになる。多機能化/高性能化に伴うハード製造費とソフト開発費高騰による資源限界も据え置きゲームが敗北した要因のひとつだろう。)

人間は常に、より多くの情報、より新しい情報、より刺激的な情報、を求めている。情報子は自己複製と複雑化を望むのだ。

 →情報子概論 Ⅳ-6. 「死」と「SEX」へつづく

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