情報子概論 Ⅳ-6. 「死」と「SEX」

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情報子概論 Ⅳ-5. 軍拡競争-相互圧力の増大と資源限界-へ戻る

Ⅳ. 情報子進化の具体的事例
6. 「死」と「SEX」

ここまで情報子の進化、特に摸倣子の進化について書いてきた。では、どのような模倣子が人間社会の中で繁殖しやすいのだろうか。

それは「死」と「SEX」である。

エントロピー増大則に相反しない存在は破局してしまう。結果として自然淘汰圧力は生命に自己複製システムと自己複雑化システムを獲得させた。生命にとって、遺伝子にとって、自己保存は重要である。故に、遺伝子の自己保存に関する情報に対して敏感な個体の遺伝子は高確率で生存競争に勝利し次世代に保存される。その結果として人間は「死」と「SEX」に関する情報に対して敏感に反応するように進化していった。人間が子孫を残していくためには、自分の安全を確保しつつ、異性を見つけ性交に成功しなければならない。(追記:ダジャレではない)

「死」とは、つまり危険と生存に関する情報である。人間が社会のアーキタイプを形成させた当初の場合、「あの森には狼がいるから入ってはいけない」や「ベニテングダケは猛毒だから食べてはいけない」などの危険を示す情報を共有していた集団は生き残ることができる。さらに発展して「弓の作り方」や「どんぐりの調理法」など食糧を獲得するための技術に関する情報も重要である。このような危険と生存に関わる情報子は伝達されやすい。それは現代でも同様である。

例えば、おいしいレストランを取り上げたグルメ雑誌やマグロの大安売りといった食糧に関する情報は連日メディアで取り上げられている。3分クッキングもそうだ。(追記:ぐるなび、食べログ、クックパッドの拡大成長もここに含まれる)

TVニュースは「死」に関する情報子を重点的に集めたものである。連日放送されるニュースの内容は殺人事件、戦争、交通事故、暴力事件が大半を占める。このような「死」の中でより衝撃的であればあるほどその情報子は繁殖する。50人近い犠牲者を出した戦後最悪の放火事件である歌舞伎町ビル火災の情報子も貿易センタービル爆破テロ(911)の情報子によって一気に淘汰されて国内でも報道されなくなってしまった。現在もこの貿易センタービル爆破テロから派生した事件の報道がニュースの情報子の多くを占めている。(追記:このレポートを書いた当時はそうだった、現在はまた別のよりセンセーショナルな情報子が繁殖している)

世紀末に流行る「ノストラダムスの大予言」や「ヨハネ黙示録」などの終末予言も「死」情報子を含んでいるために大繁殖した。多くの宗教は「死」「破滅」とそれを回避するための「救済」の二つを教義に含むことで情報子の繁殖に成功している。しかも救済は信仰という比較的低コストな代価によって得られることになっている。繁殖に成功した宗教は「低コストで破滅を回避できる」というタイプの「死」情報子を多く含んでいるケースがしばしば見られる。「口裂け女」や「トイレの花子さん」などの都市伝説も「死」情報子を含んでいるからこそ小学生のあいだで爆発的に繁殖した。

そして「死」と並んで強力に繁殖する情報子は「SEX」である。

女性の裸に興味のない男性は少ないだろう。あるいは男性の裸に興味のない女性も少ないだろう。もちろん例外はある。だが人間は常に自分の性的対象に強い興味を抱く生き物である。性に関する情報に敏感に反応する人間は遺伝子の自己保存には有利であろう。無関心な人間は生殖する機械に恵まれる確率が下がる。それゆえに、人間の脳はSEX情報子がとても繁殖しやすくなっている。

男性向け漫画雑誌の表紙には水着を着たグラビアアイドルやキャラクターが起用されている、本来は水着と漫画のあいだには何の接点もない。しかし、内容が漫画であろうが自動車カタログであろうがゲームソフトレビューであろうが、表紙に水着のアイドルやキャラクターを使っている雑誌はそれを使っていない雑誌よりもよく売れる。このような異性への興味関心は男性に限ったことではない。女性向け雑誌の表紙にはジャニーズなどの男性アイドルや人気俳優らがSEX情報子として利用されている。また化粧品や香水のボトルやパッケージには暗に男性生殖器をモチーフとしてデザインされている。

このように直接的にSEXと無関係な商品であってもSEX情報子と組み合わせることで繁殖力を強化することができる。メーカーも意識的にはじめたのではなく、いくつもの商品と公告が自然淘汰されていく過程でこのSEX情報子による繁殖力強化に気付いて利用しはじめたのだろう。自分がSEX情報子を欲していて、それを利用した商品を無意識に購入してしまっていることに気付いていないのは消費者だけだ。

死情報子とSEX情報子の繁殖と利用はあらゆるメディアで行われている。人気のあるハリウッド映画を一本見たら、その中にどれだけ大量の死情報子とSEX情報子が含まれているか考えてみて欲しい。推理小説は殺人を扱った典型的なものだ。恋愛小説はSEXをオブラートに包んで(包んでいないものが多いが)提供している。アクション映画では美女と銃撃戦が付き物で、ホラー映画には何故か被害者女性の入浴シーンがある。「死」と「SEX」を含んだ情報子は繁殖力が強いからお金になる。

例えば———イケメン主人公(女性向けSEX情報子)は元CIA捜査官(死情報子)、主人公は高層ビルを占拠したテロリストたち(死情報子)からセクシーなヒロイン(男性向けSEX情報子)を救出すべく一人立ち向かう。激しい銃撃戦(死情報子)、何故かヒロインのヌードシーン(男性向けSEX情報子)、人質がテロリストに殺されテロリストは主人公に殺され(死情報子)、幾多の苦難を超えて主人公はヒロインを救出する。そして大爆発するビル(死情報子)から主人公はヒロインを抱えて窓から飛び出す。無事に助かった二人は抱き合い激しくキスをするシーン(SEX情報子)でパンアウト———こんな感じのハリウッド映画はいくらでもあるし、映画評論家に評価される高尚で退屈な映画よりも興行成績は良い。

マスメディアという環境での生存競争に勝利していくには、死情報子とSEX情報子を利用するのが最も有効でかつ簡単である。それ故に、どのチャンネルのニュース報道を見ても同じような悲惨でセンセーショナルな出来事の映像が繰り返し報道され、どのハードウェアでもアダルトコンテンツが普及の牽引役となる。インターネットもVHSビデオデッキも一番利用されているのはアダルトコンテンツだそうだ。死情報子とSEX情報子は繁殖しやすいが故に、それが有害な影響を人間社会に及ぼしたとしても駆逐することはできない。マスメディアに関わる人間はこのことをよく考えて欲しい。何の為に誰の為にマスメディアは存在するのか。それは情報子の繁殖のためだろうか。自分が生き残りたいためだけの情報伝達に何の意味があるのだろうか。それでは情報子の奴隷のままだ。結果としてマスメディアが社会に不利益をもたらすのであれば、それは自然淘汰される。あるいは有害化したマスメディアとともに人類そのものが自然淘汰されるだろう。

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