Ⅲ. 情報子とエントロピー増大則
6. 情報子の自己保存特性
遺伝子にせよ模倣子にせよ、「情報子には自己保存特性がある」と考えられている。多くの学者は自己保存特性を、遺伝子や模倣子あるいは生物そのものの定義に入れている。
だがそれは大きな間違いである。確かに、大多数の情報子には自己保存特性があるが、自己保存特性を持たない情報子も存在している。遺伝子で言えば、同性愛傾向を発現する遺伝子や性機能不全をもたらす遺伝子、その他の重大な疾患を伴う様々な遺伝病の原因となる遺伝子がそれにあたる。摸倣子で言えば、集団自殺模倣子や最高機密模倣子などだ。このように自己複製を作れない、あるいは作りたがらないような情報子はいくらでもある。
しかし、自己保存特性を持たない情報子の個体数や存在期間は極めて少なくそして短い。全ての情報子は自然淘汰圧力に常に晒されている。自己複製を作らないが故に「オリジナルの死滅=絶滅」になってしまう。従ってエントロピー増大則に対する相反作用が極めて弱いことになる。エントロピー増大則に相反できない情報子は100%の確率で破局する。それ故に、自己保存特性を持たない情報子は短期的には存在するが長期間には存在できない。大多数の継続的に存在している情報子には当然のごとく自己保存特性が備わっている。突然変異的に自己保存特性を持たない情報子が舞台に登場したとしても、エントロピー増大則によってすぐ舞台から姿を消してしまうのである。
前節で「生命とは自己複製システムと自己複雑化システムの2つを併せ持ったエントロピー相反値の高い存在だ」と述べたが、それは生命自身の意志ではなく、この2つのシステムを持たないモノは、破局に対応できないからこの宇宙に長期間は存在できないというだけの話だ。
以上のことから分かるように、情報子の定義に自己保存特性を含めるのは大きな過ちである。情報子とエントロピー増大則に基づく自然淘汰圧力の関係を正確に理解するためには、この節の書かれていることを理解しておく必要がある。このことを理解しておかないと、例えば「情報子には意志や指向性がある」と錯覚してラマルク的なミスを犯すことになる。